緊張した経済状況の影響を受けた業績と不透明な見通し
スイス時計産業は、2025年上半期、市場動向において非常に対照的な展開を見せ、極めて見通しが困難な状況に直面しました。主要市場は、不利な経済状況と政策的な制約の影響を受けました。
平均すると、スイス時計輸出は総額129億スイスフランで、前年同期(2024年上半期)と比べて横ばい(-0.1%)でした。しかし、この一見した安定の裏には、市場、ブランド、下請け企業間での大きな格差があります。また、現地通貨での売上が好調な一方で販売店の在庫が増えるなど、必ずしも状況が一致していないケースもあります。
米国の通商政策、中国における不動産危機の長期化、武力紛争、そして高まる地政学的緊張などが、消費者の信頼感と購買力を弱める要因となっています。唯一、高級品市場はこうした状況を乗り越えているものの、物質的な贅沢よりも、旅行・グルメ・ウェルネスといった体験型ラグジュアリーへと需要が移行しつつあるようです。個人向け高級品の中では、ジュエリーの方が時計よりも安定した需要を保っています。
アメリカ市場の見通しは不確実性がきわめて高く、その影響が他の市場に波及する可能性については、さらに予測が難しい状況です。さらに、中国本土での消費回復は、2025年末まで見込めないと予想されます。この2年連続の著しい落ち込みは、他の主要市場の低迷と相まって、スイス国内の産業基盤に深刻な影響を及ぼしています。時計産業は機械工業と並んで部分的失業制度(時短勤務)を最も多く利用しており、とりわけ下請け企業では緊迫した状況に直面しているところもあります。今後のスイス時計輸出動向は減少が見込まれており、製品カテゴリーや地域によって大きな差が生じると予想されます。
製品別動向
腕時計の輸出額は輸出総額の95%以上を占める123億スイスフランにのぼり、2024年上半期(-0.1%)とほぼ変わりませんでした。1月から6月までの腕時計輸出数量は、前年同期よりも42万本少ない、約700万本でした。この5.7%減により、数量は過去最低を記録しました。
機械式時計は輸出売上高の86%を占め、2024年上半期と比較して横ばい(+0.1%)を維持しましが、数量は7.4%落ち込み、全体の減少の半分を占める結果となりました。クオーツ時計は、金額ベース(-1.7%)、数量(-4.6%)ともにマイナスを記録しました。
価格帯別に見ると、主要価格帯はおおむね安定状態を維持しましたが、200〜500スイスフラン(輸出価格)のカテゴリーが11.3%後退しました。
素材別では、一様な傾向は見られませんでした。貴金属およびバイメタルの素材では、個数が減少(-2.3%)したものの、輸出額は2.5%増加しました。一方、スチールウォッチは、輸出額のわずかな減少(-0.8%)と数量の明らかな増加(+5.3%)を記録しました。総輸出本数は、「その他の素材」および「その他の金属」カテゴリーの大幅な減少(それぞれ-25.6%、-16.8%)の影響を受けました
市場別動向
2025年上半期、主要地域はそれぞれ異なる動きを見せました。アジア市場は大幅な落ち込み(-7.2%)を記録しましたが、アメリカ市場の著しい成長(+16.8%)により相殺されました。ヨーロッパ市場は2024年とほぼ同じ水準(-0.4%)を維持しました。
アジア市場の落ち込みを見てみると、そのおよそ4分の3は中国(-18.7%)と香港(-13.3%)によるもので、前年の低水準をさらに下回る結果となりました。日本(-3.2%)とシンガポール(-3.7%)も若干の後退を見せましたが、アラブ首長国連邦(-1.1%)および韓国(-0.7%)はほぼ前年並みでした。増加傾向の台湾(+3.6%)、サウジアラビア(+7.3%)、インド(+12.7%)の伸びは、残念ながらアジア市場全体の減少傾向を覆すには至りませんでした。
ヨーロッパでは、一部の好調によりその他の落ち込みが埋め合わせられました。イギリス(-0.5%)とドイツ(-0.8%)はほぼ横ばいを保ち、大幅な後退(-6.0%)を見せたのはフランスのみで、イタリア(+0.8%)、スペイン(+11.8%)、オランダ(+1.6%)は、プラス成長を記録しました。
スイスの対米時計輸出は、追加関税の発動を見越した先行出荷によって一時的に膨らみました。特に4月には150%の増加を記録し、上半期成長率を20.4%に押し上げましたが、これは実際の販売動向を反映したものではありません。
July 17, 2025